あかりの家自閉症療育のキーワード集抄(15)
- 新1 「ムリ」じゃあない! ―お母さんとの “共闘” ―
- Mさんの髪はお母さんが切られていたが、あかりの家では、職員が美容院に連れて行っていた。何年か前、お母さんに、「美容院にも行けますよ」と勧めた。しかし、「ムリ」とのことであった。
そのお母さんに、ある時「付き添うから行きましょう。暑がりだし、髪の量が多いし。」と働きかけて美容院行きが実現した。そして当日、落ち着いてカットしてもらうMさんの姿を見たお母さんはとても喜ばれた。翌月からは、お母さんが美容院に連れて行かれるようになった。
引き続いて、あかりの家では目覚ましで起きる練習とクロスステッチに取り組んだ。帰宅時、布団に入っていることが多いと聞いていたからである。そして、帰省する時には目覚まし時計を持たせた。お母さんに「鳴ったら必ず起こして下さい。昼間はクロスステッチをしてみて下さい」とお願いした。
運よく、お母さんにはクロスステッチの経験があった。爪楊枝を糸と布の間に入れて引っ張りすぎないよう調整しながら、<二人の作品>を完成させた。実はこれも当初「ムリ」だと言われていたのだが、見事、Mさんの帰省時の習慣とされた。たくさんの作品が出来あがり、あかりで飾ったり、園長に褒めてもらったり、「あかりだより」にカラー写真で紹介したりした。
そしてもう、「ムリです」と言うお母さんではなくなった。むしろ、色々な取り組みを楽しまれるようになった。
そのお母さんが病気になられた。帰省毎に、職員と一緒に作った帽子やマフラーや千羽鶴をプレゼントした。その甲斐あって!? お母さんは今お元気だ。
- 新4 「あかりの家そつぎょう!」 してGH「友愛の家」への出発
- 自閉症の人たちのグループホーム「友愛の家」の新築完成を前にして、Zさんを含めた5人の保護者の皆さんに説明会をもった。
Zさんのお母さんは悩まれた。30年あかりの家で過ごし、「あかりの家が好き」と言うZさんを前にして、敢えて今更グループホームに移る気には中々なれなかったらしい。
そして何カ月か経った頃、Zさんのお母さんに再び話を持ち掛け、真新しいGHの見学にこぎつけた。そして部屋を案内し、「もし入るとなると、この部屋かあの部屋になります。」と話した。その瞬間、Zさんが「Zくんここ、ここがいい。」と言い出した。その言葉でお母さんの気持ちが一気に変わった。家に帰ると、「あかりの家そつぎょう!」と話したらしい。
GH行きが決まると、次は支援員側の課題、GHへの移行を成功させるための取り組みである。
先ずは、変化に伴う様々な混乱をどう最小限にしなければならない。いつ引越しをし、どこで寝るのかなど、繰り返し確認した。GHで使うベッドや日用品を一緒に買いに行き、一緒に部屋に設置し、“ここで生活をする”ことを分かってもらえるようにした。
そして当日、あかりから荷物を一緒に運んだ。GHに着いたら、日課表やカレンダーをもとに一つ一つ丁寧に話した。
今では、GHで、掃除や料理など新しいことに挑戦している。
本人の思いを優先させたお母さんの気持ちも、ZさんのGH生活をしっかり支えていると感じている。
- 新6 体操活動はオモシロイ ~あのAさんが活き活きと~
- 作業の無い土曜日の活動の一環として始めた体操活動。ストレッチや模倣動作や大運動などをしてきたが、その間、利用者の皆さんや、職員の変化を目の当たりにしてきた。
あのAさんがこんなに生き生きした表情をしている!当然、その生き生きした姿は、職員に伝わる。だから互いに有意義な時間になる。①最初に支援員
体操活動は、課題が明確であり、結果がすぐ分かる。成功すればOKサインを、失敗すればどう修正して成功で終われるかを考える。場面場面で見て感じて考えて、そしてやりとりをする。楽しい!
②隔週土曜日の体操活動で帰省の勘違いが無くなった
あかりの家では隔週土曜日を帰省日としている。しかし土曜になっても帰省日かどうか分かりづらいAさんも、体操活動があれば帰省無しというサインとなって、帰省の勘違いは無くなった。③体操活動では乱れない
あれこれ気持ちが揺れやすいBさんは、その揺れをしばしば行動化する。そのBさんを体操活動のメンバーに加えた。そして最初に、「Bさんは皆の見本になって下さい。ちゃんとしないなら公民館から歩いて帰って下さい」と、申し訳ないが揺さぶって、励ました。それが上手く伝わった。体操活動では表情も引き締まって、問題も無い。④失敗したらすぐにハードルを下げる
Cさんは、模倣動作などで上手くいかなくなると、拒否が出始める。そこで、失敗したらハードルを下げて、成功をはさむようにした。そうすると次に移っても上手くいくようになった。そういった応援を通して、職員もCさんも、互いに楽に付き合える時間となった。⑤体操活動から日常生活へ
高這いの姿勢維持が難しいDさん。体操活動で、手を着く場所に台を置き、段々低くしていって高這い姿勢を作り出し、うまく出来るようになった。今では、雑巾がけが出来る。⑥体操ではうまく関われる
Eさんは、生活に支障もきたす程に同一姿勢を取り続ける。しかし、体操活動では違う。上手くタイミングをとって動きに成功すると、笑顔も見られる。新人職員は、こういったEさんを見て、“動きたくない”のではなく“動けないのだ”ということを学んでいく。⑦体操活動で<力抜き>
余暇時、リビングで、個別のストレッチやマッサージをする。しかし、Fさんは仰向け姿勢については、身体を固くしてできない。ところが集団での体操活動では仰向け姿勢ができる。そんな時、Fさんはあくびをすることがある。あかりの家では、そのあくびは、力みが抜けて出てきたものと考える。 - 新6 「頑張らないと、あなたはまた一人ぼっちになるのよ」
- 県外のA施設で、粗暴行為で集団生活が出来なくなったTさん。施錠された居室で、TV中心の生活をしていた。そのTさんを応援することになった。あかりの家で言うところのリハビリ的短期入所である。
初日、交流ホームでしっかり向き合って話をし、身体に働き掛けて力みを解いた。それから、あかりの家の玄関をくぐった。
3日間は軸職員との準マンツーマン状態で乗り切った。初日から、着ることが出来なかった下着を着て、夜も眠れた。日中はさをり作業班に入り、食事も、お風呂もみんなと一緒に過ごした。美容院にも行った。
しばらくは「A施設に帰るの」との訴えが続いた。それが段々と、「あかりの家にいるの」という言葉に代わっていった。彼女の心の変化に、嬉しくも内心複雑であった。A施設に帰って行くことは、両親や行政やA施設の覚悟の中での既定の方針であったからである。
有期限有目的の数カ月のリハビリ的短期入所の最後は、あかりの生活とA施設での生活が半々となったが、あかりに帰ってくると「A施設に泊まったらあかり帰ってくるの」など話しかけてくることが増えていった。寂しそうにぼそぼそと話すこともあった。私は私で、”A施設でも頑張らないと、あなたはまた一人ぼっちになるのよ。お願いだから頑張るのよ!”と心の中でつぶやいていた。
送り出しにアルバムを作った。「あかりは卒業です」と励ましながら言い切ったりもした。A施設に帰る前夜、園長に「卒業」と大書した“卒業証書”を作ってもらって、ささやかな“卒業式”もした。そして、A施設へ帰って行った。
- お客さんキーワード 330 彼らの声
- 彼らはメッセージを送り続けている。暮らしにくさというメッセージを送っている。私たちは、そのメッセージを聞き漏らす。そのことは彼らの信頼を裏切ってしまうこととなる。
私たちは、彼らのメッセージを聞き漏らさぬよう、彼らの心の揺れ動きに思いを傾けなくてはならない。
頬の筋肉の緊張が発するメッセージ、身体の揺れ動きが発するメッセージ、膝の角度が発するメッセージ、行動の変化が示すメッセージ。
そのメッセージを受け止めるアンテナの感度を、スーパーバイザー養成実務研修から学んだ。