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あかりの家自閉症療育のキーワード集抄(10)
- #136 そばにいてくれるだけでいい」~ある1日の決意から始まった変化~
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靴下を履かない、ベルトをしない、トイレ後の手洗いをしない、あちこちの場面で身だしなみが気になるBさん。
ついつい注意の声掛け が多くなる。
毎日続く。
これでよいのか迷い始めた。
10月のある日、「出来ていること」への声掛けだけで通すことにした。
「作業着、着れてるね」「手洗えたね」「それでいいよ」と、肯定的な言葉で徹底し、褒めた。
するとその日、リビングでゆっくり座って過ごしている。
入浴後の靴 下も履いているし、ベルトもきちんとしている。
考えても無かったこと が起きた。
それから1週間、目の前に来たBさんが「そばにいてくれるだけでいい」とポソッと肱いたのである。
突然の、どこかで聞いた台詞のような言葉に驚かされた。
彼の言葉をほとんど耳にした事がない園長からは “ホンマ力イナ” と笑われた。
しかし本当である。
実はBさん、 TVのクイズ番組をチラチラ見ていて突然正解を呟いたという伝説の持ち主であった。
そうして、言葉のやりとりも増えた。
靴下やベルトをしていることをアピールし始め、すぐに居室に入らず消灯時間ギリギリまでリビングで過ごすことも増えた。
ある1日の決意から始まった変化を、どう解釈するか。
情緒的な解釈しかできないが、あの徹底して肯定した一日の「点」が、「線」となって繋がり始めていることは確かである。
- #107 服破りの姿勢
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Jさんは、 服を破く、 水に浸ける、 渡す服も着ようとしない等が 続いて、 だんだん裸で過ごす時聞が増えだした。
そこで12年前に始まった療育研修で、いの一番に取り上げた。そうして、服を着て生活できるようになった。
そのことについて、当時から今に引き継がれている着眼点がある。
それは、 服破りにつながる「イスに座る姿勢」がある。
背中が曲がり、頭が下がり、両足を強く閉じて、太ももの下に両手を挟み、両足をイスの下まで曲げる、そういった姿勢が服破りにつながる。
それを放置しておくと、どんどんと前傾姿勢になり、腹に力が 入り、視線が下に行き、身体全体に力が入って表情も険しくなってくる。
そうすると、 靴下を強く上げ、 ズボンの裾を強く下げ、 服の袖を強く伸ばし、 襟を触る。
しまいに「ハ、ソ~!」と声が出て服を破る。
そういった一連の動きを絶つためのポイントが、背もたれに背中をつける、頭を上げる、両足を広げる、両手を太ももの上に乗せ る両足を前へ出す姿勢である。
言葉だけでも姿勢を修正できるが、できない時は、隣に座って「足を伸ばす」と言葉かけをし、こちらも足を伸ばして見せたりする。
あるいは、Jさんの両手を持ってパンザイのポーズで力抜きをした後、座り方の修正をする。
修正が成功すると、 靴下を強く上げるなどの動きはほとんど見られない。
身体の力が少しずつ抜けて、 表情も柔らかくなり、 ゆったりと座れる。
「エエ感じ」と声をかける。
Jさんもコクリと領く。
- #93 これまでの関係があれば成功できる!
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「死ぬかもしれない手術なんか、Hがいなかったら受けようと思わない。」と、手術の決意をされたHさんのお母さん。
しかし、そう言うお母さんも、入院前の面会には消極的であった。
これまでの経験から、面会後帰省できないことで、状態を崩すのではないか、そのような不安が先に立ったようである。
一方で、お母さんの体調からして、今後宿泊帰省は難しくなりそうだ。
だから、この面会を成功させて、お母さんが、帰省なしの面会にも、不安なく来られるようにしたいと考えた。
成功できると思った。
新任で担当した2年半前、イライラ動き回以甲高い声でしゃべりまくっていた。
食事では“盗食”が頻繁にあって、支援員は H さんの手を持ち、 体でガードして “盗食”を防いでいた。
それでも隙を狙われるような状態であった。
2人だけのゆっくりした時間を、外出を含め一生懸命作った。
そうして、今では落ち着いて話を聞いてもらい、 約束も守ってもらえるようになった。
だから、しっかり話し込めば、思いは伝わると考えた。
そうして、当日朝、静かな居室で、外食でのふるまい方や家に帰らないことなど、しっかりゆっくり話をした。
そして、1年ぷりにお母さんと妹さんを迎え、私を含め4人で外食に出かけた。
レストランではお母さんの横に座った。
そしてゆったりと自分で食べている。
コーヒーも一口飲んでは置いている。
「( 一気飲みでなく〉ゆっくり飲むのを初めて見た」と妹が驚いた。
「良かったね」と話しかけると、 二コっと満足の領きをする。
そうして、お母さんが、「おかあちゃん頑張って手術するからな」と話すと、「うんうん」と顔を見ながら真剣な顔で領いた。
その時、足の貧乏ゆすりは止まり、曲った姿勢も背中が伸びた。別れ際、どこで寝るのか聞くと、「あかりで寝ます」と落ち着いて答えた。
退院後、定期的な面会も始まった。
「帰省のない面会」の成功が、お母さんの気持ちを前向きにさせた。
- #64 見通しが覚悟を引き出した
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親知らず2本を抜くことになったSさん。
母親の話では、子どもの頃、耳鼻科で大きな抵抗があってから歯医者には行ってないという。
1本ずつ2固に分けて抜くと聞く。
となると、次に繋げるために、1 回目を成功させなければならない。
あかりの家では歯科検診が毎月あるが、歯医者に行くとなるとまた遣う。
苦手な注射もあるし、強い拒否が十分予想された。
通院の朝、“今日は歯医者に行く、歯に注射する、奥の歯を抜いてもらう” と言う事を、静かな居室で一つ一つ説明した。
はじめは、「くるま」と言ったり、作業棟を指さしたりして、外出するのか?作業するのか?と確認をしていた。
しかし、5分ほど一つずつ説明していくと、次第に真剣な顔つきになった。
最後に「どこいくの?」と聞くと歯を指差し「ハイシャ」と言い、「注射どこにするの?」と聞くと歯ぐきを指差して応えられるようになった。
往きの車中では外を見ながら時に笑顔が見られた。
ところが歯科に着くと覚悟を決めたような顔つきに変わった。
待ち時間も、聞こえてくる歯を削る音や痛みの声などに乱れることはなかった。
診察台に上がってからも、ロを大きく聞け、見慣れぬ器具にも注射にも恐れる事無く治療を終えた。
拍子抜けする程に抵抗なく終わった。
事前の説明で、見通しを持ち、心積もりできたことが、彼の努力や覚悟を引き出したと考えている。
- #55 関係づくりことば
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Zさんはお茶やお汁を飲む際、わざと服にお茶をこぼすことがある。
6年前担当になった時、「お茶をこぼしてはダメ!」と徹底して言い続けた。
しかし、上手く伝わっている感触はなかった。
そこで、「ダメ!」を、「お茶をこぼさないように気をつけてね。」と変えてみた。
そして、ちゃんと飲めた時には、二人で「セーフ!」とジェスチヤーをして、少し冗談も絡めた。
そのうち、「今日もセーフでね。」が、二人の共通言語になった。
ちゃんと飲めた時には、Zさん自らが、小さい声で「セーフ」と言ってくれるようになった。
お茶こぼしもかなり減った。
そして今年度に入って、幾分しゃれた感じの「マナー」という言葉に変えた。
最初に使った時、彼はニヤニヤっと笑った。今では、色んな場面で使える言葉になってきた。