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あかりの家自閉症療育のキーワード集抄(9)
- #130 整体先生大好き
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Tさんは、週一回来られる整体の先生が大好きだ。
そのTさん、初めて行く場所はオドオドして入りづらい。
あかりの家でも自分の部屋以外は入りづらい。
そこで大好きな整体先生に協力を願い、別の部屋で整体を受けた。
それをきっかけに、どの部屋でも入って行きやすくなった。
又、エコー検査が予定されていて、これも整体先生に乳液をつけてもらって予行演習した。
そして病院でも成功した。
そして最近、レインボーデイ(小グループ日帰り旅行)でイルカを触る体験を計画した。
初めての場所で、生き物に触るという一寸ハードルを上げた計画であったが、当日、イルカに楽しみながら触ることもできた。
出来ることが増えてくると、声かけも増えて、会話の機会も多くなった。
やりとりを楽しめるようになって、発音も良くなった。
整体先生ありがとうございました。
- #65 一つでも多くの準備
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ロングショートのSさん。
「あかりで健康的な生活を取り戻す」段階と「あかりから所属の通所施設に通う」段階を経て、「あかりから通所施設に通い、帰宅もする」段階に入った。
当初描いた方向通りに、順調に進んでいるようであった。
その日は、あかりから母親の迎えで通所施設に通い、終了後は(あかりに帰ってくるのではなく)、帰宅する日であった。
あかりの朝の引き継ぎでも、その辺りの説明がなされた。
しかし、通所終了時に、あかりか帰宅か、間違うこともあるし混乱もするはずだ。
都合の良い解釈をすることもある。
それをどう伝えるか。
このままでは、通所後あかりに帰ってくる日も、帰宅すると言い出すのではないか、そう解釈をしそうなSさんの印象があっただけに、フッと不安がよぎった。
中心的に担っているK支援員に「いつも通りに通所するんですか?」と聞いた。
そして、数時間後、「カバンを変えるようにするわ。」と話が返って来た。
僕の心配は消えた。
彼らの応援には様々なアイテムが手助けをしてくれる。
今回は、“帰省する場合”と“帰省しない場合”のカバンに違いを付けて、あかりか帰宅かの手掛かりとした。
今回の僕の一寸した不安とK支援員の対応に、自閉症者施設職員としての“アイデンティティ”のようなものを感じた。
常日頃、設定を成功させるためには、先手的な、数多くの小さな準備が必要であることを意識している僕にとって、今回のカバンに、その思いを改めて強くさせてもらった。
- #26 「ちゃんとご飯食べないと、病気になります!」
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分場でEさんが、昼食のメニューについて質問に来る。
それに答えている時、突然泣き顔になって地団駄を踏み始めた。
「どうしたの」と聞くと、泣き顔で「ちゃんとご飯食べないと、病気になります。」と答えてきた。
「うんそうだね。でも食べたくない時は、無理して食べなくてもいいんだよ。」と返してあげた。
しかしイライラは納まらない。
その時、思いと違うことを言っていることを直感して、両肩を抱きながら「イライラしている理由は、他にあるんでしょう。言ってごらん。」と聞いた。
沈黙の後「ゆで卵がいい」と静かに答えた。
メニューは半熟卵であった。
「すぐ作ってあげるからイライラしないで待ってて下さい。」と伝えて、ゆで卵を作る用意をし始めるとスーと落ち着いてきた。
お母さんに聞くと、家族が生卵を食べる時には、Eさんだけにゆで卵にしてあげているとの事であった。
- #38 終りをたくさん作る
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K君は、パチンコ台分解班でプラスチックの分別作業をしているが、持続性がない。
そこで5分タイマーを利用して、鳴れば始め、鳴れば休憩し、鳴れば始めることにしたところ、集中できるようになった。
「見通し」とか「分かりやすい」ことに関係するのであろう。
1時間1課題より30分2課題、更には、10分6課題の方が分かりやすい。
終わりが分かって見通しがつきやすい。
量についても同様である。
いつ終わるかもわからない量を山盛りで差し出されるより、それを30分で終われる量毎に小分けして出された方が、「終わりをたくさん作る」ことになる。
- #93 あかりの家でうまくやれると学校でもできた
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学校ではみんなが食べ終わらないと食べ始めないB君。
あかりのショートステイという別環境で、皆と一緒に食事をとった。
特に何も設定はしなかった。
すると学校で、今までのこだわりは何も無かったように、皆と一緒に食べるようになった。
- #155 100並べで色んな彼が見えてきた
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思い通りにならないと奇声を上げるSさん。
帰省や行事の確認が多く、発語は不明瞭で分かりづらい。
その確認行為にどう対応するか、日々の課題であったが、私にはもっと違った関係も築きたいという思いが強くなっていた。
そこで新たな関係づくりを目指して、「100並べ」の課題を始めた。
勤務を終えてから毎日 、1~100までのマグネットを、枠と数字が書かれた文字盤の上に並べることをした。
最初はマグネットを枠内に置くこともできなかった。
分からないと奇声を上げた。
しかし、続けた。
すると、2~3回で、枠内に並べるようになってきた。
2カ月ほど経つと、数字に気づき始めた。
マグネットをとる際に迷うことが出始めたのだ。
今は、30個程の数字は正しく選べる。まだまだ学ぶことが出来ることを知った。
これまで学べていなかったことも、身をもって知った。
Sさんのイメージが変わった。
真面目に一生懸命取り組める一面を知り、Sさんの言葉でわかる単語が増えた。
コミュニケーションが取りやすくなり、嬉しそうに笑う場面が増えた。
課題を通して作った関係や気付きは、日常生活にも繋がった。
確認行為にどう対応するかだけでなく、「新しいことを一緒にやりたい」と思うになった。
例えば、最初は雑巾の場所を全く知らなかったが、掃除時に毎回教えて、1ヵ月ほどで取れるようになった。
- #25 「食べない」ではなく「食べられない」
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養護学校の先生から紹介されて、短期入所にやってきたA君。
聞き取りでは、「パン、お菓子、麺類しか食べられない。他の食べ物を口に入れられない。」であった。
最初の食事で、「食事に行くよ」と伝えると、スムーズに移動できる。
着席もできる。
食べようという思いは、それまでの動きから想像できる。
ところが、スプーンが持てない。
こちらでスプーンを持って口に運ぶが、口を開けて食べ物を迎え入れることができない。
そこでスプーンに乗せる量を極少量にすると、口を開けられる。
しかし、転がすように舌で動かしているだけで、噛まずに飲み込めない。
そこで、口の動きと飲み込みのタイミングを「モグモグ」「ごっくん」と教えるようにする。
食事ができないのではない。
食物を食べる際、動作、タイミングが分からないのかもしれない。
口の中に入れる量が分からず、スプーンが持てない。
口の中に食物が入ると噛むことができず、咀嚼に繋がらない。
咀嚼が出来ないため、嚥下ができない。
食べるための道具の操作(量の捉え方を含め)、食べる行為(咀嚼、嚥下)を教えてあげることで、食べられる実感が生まれた。
そして、一人で食べられようになった。
家庭に帰っても、食べられるようになり、母親は大喜びで苦手なものでも練習しようと前向きに取り組んでいる。