あかりの家自閉症療育のキーワード集抄(7)
- #11 自己流を変えてもらうための仕切り直し
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Uさんは就寝時パジャマを着ないことが続いていた。
ある日「パジャマを着て寝てよ」とパジャマを渡すと突っかかってきた。
何とか着用して布団に入るが、後で見に行くとまた服に着替えて布団に入っていた。
そして今年度、外勤班に変わって作業着を着ることになった。
ところが今度は作業着で寝始めた。
ここでやっと分かった。
パジャマが嫌なのではなく、次の日の服で寝ることに決めていたのだ。
パジャマ着用のための仕切り直しが必要となった。
先ず、パジャマと、日中服と、作業着を入れるカゴ3つを準備して、就寝時、朝の着替え時、作業に行く前に、着る服、脱ぐ服を分かりやすく整理した。
その流れを作って以降、パジャマ、日中服、作業着の着替えに混乱がなくなり、定着した。 - #12 マグネットを増やしていくか減らしていくか
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Gさんは耳掃除が好きだ。
しかしやりすぎは傷ができて困る。
「また今度」だけでは拒否だけが伝わってイライラ手を噛むことがある。
マグネットを使ってみた。最初、食堂掃除をする度にマグネットを貼り、3個溜まれば綿棒を渡すことにした。
しかし上手く理解してもらえない。
次に最初からマグネット3個貼っておいて、掃除の度に1個ずつ別の容器に移してゼロになったら綿棒を渡すようにした。
そのやり方の方は理解できて、今では綿棒でイライラすることはない。 - #48 反応しやすいものを視界から遠ざける
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毎年の親子一泊旅行の宴会で、執拗で強引なトイレ要求やお茶要求が激しく、最後まで食事場面に居ることが難しいAさん。
視界に入るものに反応しやすいようで、この旅行では、テーブルの中央の水を、Aさんが手を伸ばしても届かない距離や見えにくい場所に置くことで、執拗さが激減した。
目に入るか入らないかというだけで、行動が大きく変わる様子を直に感じ取れた。 - #63 グシャグシャを整理してあげる
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週末帰宅からの帰園時、B君は毎回、帰宅中の昼夜逆転(特定のこだわりを解消するために一晩起きている)などで乱れた生活リズムや状態を家庭から引きずって帰ってくる。
そういった状態を「グシャグシャ」と表現しているが、それを「整理」して立て直さなければならない。
・止めてあげる(グランドへの飛び出しや室内での徘徊を止め、椅子に座って過ごす。奇声や無意味な声を止めてあげる)
・伝わりやすい言葉かけを心掛ける。しっかり向き合って、丁寧に説明する。
・生活リズムを早く取り戻す
・パニックを起こさせない(職員が、失敗させない。未然に回避するための敏感さを持つ)等により、落ち着きを取り戻す。
施設の生活は、日課や空間が構造化されて感情を整理しやすいこともあるが、ポイントは、「止めてあげることができる関係」である。
新人ではできない。 - #95 おじいちゃんの死 - 内面を引き出す、受け止める ―
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8月末の帰省後から、苦しそうに顔を歪めながら奇声をあげ、手を叩き部屋から走り出すこと事が続いたGさん。
言葉は無いが、思いをカードで選び出すことができる。
そして「お爺さん」に絞り込めた。
お母さんに聞くと、8月にGさんを可愛がってくれていたお爺さんが亡くなり、それを帰省時に知らされたらしい。
どうもそのことらしい。
ある程度は時間が解決してくれると思ったが、1か月経っても抜け出せない。
ここに至って、Gさんの辛い思いを徹底的に吐き出してもらう覚悟を決めた。
30種類ほどのカードを作って聞いてみると、「お母さん」「お父さん」「お爺さん」のカードを何度も手渡してくる。
お爺さんの思い出も聞くと、「おじいさん」「お風呂」「テレビ」「寝る」のカードを渡してくる。
それぞれについて、「おじいさんとお風呂入ったの」「テレビ見たの」と聞くと、その度にガッツポーズで返してくれた。
「楽しかったんだね。いい思い出を残してもらえたね。」
と、Gさんの思いを汲み取った言葉を返していく。
そんなカードを使った会話を、30分ほど繰り返した。
その後で、心を込めて、ゆっくり、お爺さんはもう亡くなって、家に帰ってもいないことを伝えた。
何度も繰り返し、伝えた。
そして、最後に一緒に目を瞑って手を合わせて静かにお祈りをした。
翌日からイライラした様子はなくなった。 - #96 キライでは見えなかった
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4年目にして眼鏡を取られた。
夜間に失禁され、トイレ誘導すると再入眠しない。
一年目の関係の方が良かった。
ある日の夜勤も中々寝ない。
「なんでネーヘンのヨ!」と感情だけで怒った。
その時だ、いつもは怒られるとのけ反ったりするNさんが、すり寄ってきて静かに泣いたのである。
ハッとして、“でも寝れないのよ!どうにかしてよ!”というNさんのどうしようもできない苦しみを実感したのである。
それをきっかけにNさんとの関係を見直し始めた。Nさんといるだけで、指が動くだけでイライラしている自分に気づいた。
キライだと先に進めない。
好きになろう、そう決めた。
私はNさんと担当のHさんとの間に流れる空気が好きだった。
そこで、担当の真似をして抱きついてみた。
肌から伝わる温もりで、スーと落ち着いて、素直になっていく自分を感じた。
次からイライラしそうになると、私がイライラしないために抱きついた。
私の気持ちの変化だけで、夜間眠れる時間が増えてきた。
今までは目を閉じるかどうかばかり見ていたマッサージも、どこをマッサージすれば気持ち良さそうにするか、目がトローンとなるか見られるようになった。
振り返ると私のイライラが彼女の多動を助長していた。
怒っている人が横にいたら寝られないのは当たり前だ。
今では、どれだけ早く寝かせてあげられるかという思いに変わった。
マッサージで眠そうになっていく彼女の姿が嬉しい。 - #171 希望から始まった
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こだわりやパニックでがんじがらめになって、本人も家族も通所施設も、みんな身動きできなくなって、まずは家族から離れようと、短期入所となったZさん。
来所初日、職員3人に囲まれて、父親と母親それぞれから「とても一緒に生活できない。
あかりの家で頑張って欲しい。
元気になったら迎えに来る」と言ってもらう。
初日から問題行動はかなり改善されるが、ストレスからか両腕が上がらなくなる。
1ヶ月を過ぎると、問題行動は改善され、その分だけ幾分表情は緩んだが、腕はまだ上がらない。
しかし、転機が来た。
帰宅への希望である。2カ月たって、状態も落ち着いてきたため両親との面会を予定した。
この面会は絶対に成功させなければならないと、慎重に丁寧に準備した。
家族との思い出写真を送ってもらった。 両親から「元気でがんばって嬉しいよ。会いに行くよ」との電話をもらった。
初面会の日、本人からも両親からも緊張がビュンビュン伝わってくる。
それを何とか乗り越えて、「また会いに来るよ」と言われ「がんばる」と応えた。
表情が緩み笑顔になった。
それから、腕もウソのように上がるようになった。
そして2泊3日の最初の一時帰宅を迎えるが、何とか大きな問題を起こさず、満面の笑顔であかりに帰ってきた。