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あかりの家自閉症療育のキーワード集抄(6)
- #3 “ちょっとしたこと” と “ちょっとどころではないこと”
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Gさんは「入浴前にいつものタオルがない」とか「買い物に行ったらいつものカップラーメンがない」とか“ちょっとしたこと”でパニックを起こす。
本当に“ちょっとしたこと”だから「ごめん、無かったわ!」の後手対応となる。
“そんなことで怒るなよ”ともなる。
そういった場面に最近また出くわし、考えさせられた。
僕たちにとっては“ちょっとしたこと”だけど、彼にとっては“ちょっとどころではない”大変なことだという、自閉症理解の原点である、彼の困り具合に立つところから、彼の支援が始まる。
- #8 母心
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週末帰宅時に、母親に向かって、次の帰省確認が止まらなくなったDさん。
母親は、まだ家に居たいのだろうと帰園の日を1日延ばす。
それが増えていって、あかりの家でも、帰省にからんだい.ら立ち...が目立ち始めた。
もう1日家に居させてやろうとする優しさが、Dさんを混乱させたようだ。
そうして家での日数が更に延びて、自宅の過ごし方の問題が強まった。
そのことを母親とDさんに説明し、帰省は1泊2日で固定して、そのリズムは変えないよう頼んだ。
その固定が良かった。
自宅での生活リズムができて、確認を減少させ、あかりの家にいても、帰省の見通しが立ちやすくなった。
そして帰省に関するトラブルは激減した。
- #26 ありがとう - つきあいきる -
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外出すると食事がほとんどとれないTさん。
そのTさんと小グループ日帰り旅行で外食をすることになった。
外出でも父親とであれば食べられるという情報を得て、何としても成功させたいと考えた。
興味のある文字を利用した二人の関係作りから始めたが、初回は5分ももたなかった。
しかし、一月後には30分に延びた。
できた時は大げさに褒めて喜びを共有し二人で過ごす経験を重ねた。
また、新任としての4月には肩を触ると叩き落とされていたが、2か月程すると私の肩を叩いて意思表示ができる関係にまでなった。
関係作りの次は環境作りである。
Tさんと二人で外出し、あかりの家にはない苦手な刺激や得意なものの把握に努めた。
その結果、外食場所の条件として、他人がいない、バックミュージックのない静かな店内、暑さを避けるために室温調整ができる個室、好きな和食、油臭のない店などが浮かび上がってきた。
条件の揃った店を何件も探し、やっと見つけた。
そして下見をして目と耳と舌で確認した。
そして当日、Tさんの前に運ばれたのは多量の和食コース料理で、釜飯だけで茶碗3杯もあった。
しかし、Tさんは手を止めず全ての料理を食べた。
食後、共に喜んでいると、それまでジェスチャーで喜びを表現していたTさんが、突然曇りガラスに字を書いた。
よく見ると「ありがとう」と2回書いてある。
驚きと嬉しさから涙がこみ上げ、すぐにその字は見えなくなった。
こちらこそ「ありがとう」。
- #71 力を抜いてゆっくり
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Aさんの食事はとにかく早い。
5分で終了してしまう。
観察すると、身体に力が入って、かなり前傾姿勢になっている。
そこで、背筋は軽く伸ばし、椅子をひくなどの姿勢を整えた。
そこから、職員主導で(最初は職員が食べさせる → ゆっくりした動き、ペースを意識してもらう)食事をしてもらうことで、以前のようなバタバタした食べ方から、大分まとまった形ができるようになった。
日常生活場面全体でも、「ゆっくり」を意識して行動してもらい、力みも減りつつある。
力み無く、落ち着いて過ごせるための応援である。
- #41 感覚過敏にしたのだ
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こだわりが多くて強くて身動きがとれなくなったAさん。
必然的に家族を巻き込む。
暴れて挙句の果てに母親と妹を家から追い出して、父親との二人住まい。
通所施設は一人部屋を用意するが、段々通えなくなって布団にこもる。
熱い汁物は食べられない、湯船に入れない。
チクチクする散髪屋に行けない。
人のクシャミや咳に反応する。
周囲の会話から「ね」の入った言葉を聞くと「ねねねね・・・・」とわめきたて、トンネルの「ネ」の字を見てトンネル前でパニックを起こす。
周りの家に明かりがともり始めると布団を敷かなければならない。
便が出ないとパニックになるのでチョコボールを置いてパニックを回避する。
視・聴・触覚が過敏で、「食・眠・排泄/日中活動」のありとあらゆる場面で強いこだわりやパニックが出る。
あかりの初日に入浴はクリアするが、しばらく食事で自分や周囲の利用者のお茶や汁物をひっくり返し、ご飯などを吐き出した。
非常ベルにも反応し何度か押した。
ストレスからか両腕も上がらなくなった。
それも、「しなくてもすむ」関係と環境を丁寧に積み上げていって、1ヶ月ほどで熱目の汁物も食べられるようになる。
「ね」にも反応しなくなる。
念のため預かっていた射撃用のヘッドホーンも、預かっていたことすら忘れていた。
上がらなくなっていた両腕も上がり始めて、家にも帰れるようになる。
強く拒否していた母親と一緒に居られるようにもなって、暗く険しい表情に笑顔が見られ始めた。
追い詰められる度にどんどん膨らんで、生活をガンジガラメにさせた彼の「感覚過敏」とは何か?「感覚過敏」を気遣って「感覚過敏」を強化し、「感覚過敏」に配慮して孤独に追いやる、そんな姿を思った。
何らかのベースは想定する必要はあるとしても、この事例は「感覚過敏」なのではなく、「感覚過敏にした」のである。
そのような療育的な言葉に置き換えて教訓とした。
- #73 小便小僧 ― 力抜き ―
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Yさんは頭を下げ腹部を引いて極端に縮みこまった体勢で排尿している。
腹部を緊張させて搾り出している。
状態が悪ければ排尿自体が困難になる。
そこで、下がった頭を上に向け、腹部を押して腹部の力みを抜くようにした。
しかし、腹部を押されることでさらに腹部に緊張を生み、腰が引けて体勢は更に丸まった。
ある日フット、小便小僧に目がいった。
Yさんとは逆の体勢で腹部を前に突き出している。
物は試しと、顔を上げ後ろから腰を押し出すことで腹部を伸ばしてみた。
すると、以前より力みがない滑らかな排尿ができた。
- #86 受け止める
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しっかり「受け止める」という言葉に、長くこだわっている。
安心感、安定感、信頼感ともつながる。
叱るにしても、褒めるにしても、守るにしても、「大丈夫!ヨッシまかしとけ!」といった“どっしり感”は、非常に重要である。
「怒らなくて大丈夫。しっかり手を持っていてあげるから」と応援の声がかけられるかどうか、ということにもなる。
受け止めるとは、「体重と気持ちを一歩前に出す」こと、とも話す。
逃げない、避けない、愚痴らない、暗くならない、応援をけちらないとも広がっていく。
- #163 プロになるための修行
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新任職員が、D君の食事場面で何年か振りのパニックを起こさせた。
その職員は、自分の言葉がけから引き起こされたパニックに落ち込んだ。
そういった時、パニックや関係を定着させない方法として、しばらく働きかけを避ける方法がある。
しかし現実には、同じ職員が関わらざるを得ない。
そこで、場所や場面を変えてみる。
言葉かけでつまづいたのなら、次は、「一寸聞いて」と間を置いて話に入るとか、低い声で、ゆっくり、伝えやすい言葉で話すなどの工夫をする。
工夫なく失敗の繰り返しはダメ。 そういう話をした。
修行である。
<S・V>
本を読んで勉強しても付き合い方の力量はあがらない。
結局は、失敗しながら痛い思いをしながら、彼らと付き合いながら、いろいろなことを気付かされながら、自分の力量を上げていくしかない。