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あかりの家自閉症療育のキーワード集抄(5)
- #3 したくないのにしてしまう苦しさ
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(2)帰宅拒否
A君は高3。
母親に対して喉元をつかみにいく行為が続き、ショート利用に至る。
今日まで一番身近で支えてくれた母親を攻撃してしまうつらさである。
そこで家庭から一旦切り離さざるを得なかった訳だが、週末、母親が車で迎えに来ても帰ろうとしなかった。
お母さんは、寂しさとホッとした気持ちが入り混じる複雑な気持ちで帰られた。
母親を見た瞬間動けなかったのかもしれない、見捨てられ感が急膨張したのかもしれない。
しかし、われわれはそこに、“家に帰ればまた攻撃してしまう(あかりの家にいればしなくてすむ。)”といった思いを一番に想定した。
- #4 苦手な声や音
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(1)姫路親子体操教室でのアンケート
「嫌いな刺激やものや場所について」11人のお母さんに聞いた。
①「叱られる時の強い口調」(73%)
②「人が叱られる声」、「人の泣き声」(各55%)
④「騒々しい集団の声」(45%)
⑤「騒々しい音」(36%)と、声や音に関するものが上位を占め
⑥に「身体接触」(27%)
⑦「ピストルの音」「暗いところ」(各18%)
と続いた。
(4)叱られる声に反応して皿を割る
B君は状態が崩れてくると、衝動的に皿を床に叩きつけ、割ってしまうことがある。
中でもZ君のあげる大きな声・地団駄を踏む足音には過敏に反応して、瞬時にしてそういう行動が出てしまう。
- #65 自分の身体をコントロールする
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Aさんは、状態が悪いと多動になる。
すぐ手があがり、自分の身体をコントロールできなくなる。
そこで自分の身体を少しでも意識してもらうために、肘掛椅子の手を乗せる辺りに半分に切ったテニスボールをテープで留めた。
肘掛けに肘を置き、ボールを掴ませるようにしてみた。
椅子に深く座ることもした。
その工夫はある程度成功し、自分の手をコントロールしている様子がはっきり伺えた。
多動的な手の動きは減少した。
<S・V>
彼らの動きは2種類のモードで考えると解りやすい。
①自分の身体が自分の身体に所属している時
②自分の動きが自分の所有外になっている時
後者は、反射的で、「先行刺激に支配」されていると言える。
本人の人格とは無関係に動いてしまう脱コントロールモードの状態とも言える。
このモードの切り替えをうまくしてあげる必要がある。
- #71 力を抜いてゆっくり
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Aさんの食事はとにかく早い。
5分で終了してしまう。
観察すると、身体に力が入って、かなり前傾姿勢になっている。
そこで、背筋は軽く伸ばし、椅子をひくなどの姿勢を整えた。
そこから、職員主導で(最初は職員が食べさせる → ゆっくりした動き、ペースを意識してもらう)食事をしてもらうことで、以前のようなバタバタした食べ方から、大分まとまった形ができるようになった。
日常生活場面全体でも、「ゆっくり」を意識して行動してもらい、力みも減りつつある。
力み無く、落ち着いて過ごせるための応援である。
- #88 感度 -ああこれだ!怒っている理由は-
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ショート利用のBさんが食事中突然怒り出した。
原因をあれこれ思い巡らせるが、分からない。
ふと周りを見た時、斜め前の人の頬にご飯粒がついていた。
「ああこれだ」とわかり、ご飯粒を取り除きながら「Aさん、この人の頬にご飯粒が付いていることで怒ったのね」と話しかけると、スーと怒りが収まった。
<S・V> 上手くしゃべれない彼らが何かをした時、その意味は一体何なのか、それへの「感度」は重要。
「感度」はプロとしての力量の必要条件。
「何やってんだ、困るよ!」じゃあダメ。
その感度が低い職員は今から辞めて欲しい。
あるいは色んな仮説を持って、何日か経つうちに「あっ、あれは、そーだったんだ。きっと!」という風な考え方、感じ方ができる人ではないと出来ないんです、この仕事は。
常に、この感覚は磨いておいて欲しい。
- #107 「寝る」に導く2つの対応
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<ショートAさん>
家では一人部屋で深夜まで独語があり、家族が寝静まってから起き出して食べ物を食べる。
定期宿泊利用が始まった。
就寝時、独語が出るが声掛けで止まり、比較的短時間で寝付けた。
しかし、真夜中に目覚め独語が出始める。
そこで、本人の布団に入って横に寝ることにした。
独語を止めるより、布団に入って直接示してあげる方が分かりやすいと考えたからだ。
そのことを拒否しないことも分かっていた。
闇の中、黙って横になる私。
こちらの行動にびっくりした様子で黙って身体を硬くしているAさん。
30分程して、背を向けていたAさんが、そっと片手を動かして上向きで寝ている私に手を伸ばしてきた。
私の手を探している風だった。
そしてそっと支援員の手を繋ぐ。
繋いだ手の感触から身体の力は抜けていることが分かる。
闇の中、沈黙が続く。
そうしてAさんは寝息を立て始めた。
<ショートBさん>
家庭では独語しながら本を見て眠らない。
本を散乱させたまま午前3時頃浅く眠るとのこと。
初めての宿泊ショート。
消灯後側に付き添い「今から寝る時間よ。
寝る時間はお喋りしません」と伝えていく。
しばらくは黙っているが独語がすぐ出る。
再度「今は寝る時間よ。お喋りしません」と伝える。
独語が又出る。
間髪を入れず、「いつまで喋っているの!」と気迫で一喝した。
日中の付き合いから、次に独語が出た時は一喝する方が伝わりやすいと考えたからだ。
シンとなった次の瞬間、Bさんはやにわに起き上がり、支援員の方を向いてベッドに正座し「申し訳ございませんでした」と、両手をついて深々と頭を下げた。
内心笑いながら「分かったら宜しい。寝なさい」と真面目に答えた。
Bさんは「はい」と真面目に返事し、きちんと布団を掛け直し仰向けになった。
すぐに寝息をたて、起床まで熟睡する。
- #112 水だけで便秘が解消した喜び/これすらも出来ていなかった反省
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便秘傾向で排便時間も定まっていないNさん。
運動も考えたが、日課にすぐ組み込みやすい、起床後のコップ1杯の水と朝食後の定時排便から取り組みを始めた。
その結果、2~3日置きに硬便が出始めた。
次に、コップ2杯にしてみた。
すると固くて少量の便が、ほぼ毎日見られるようになった。
水と定時排便だけで便秘傾向が解消できたのである。
これだけで効果があった嬉しさがある。
反面、これだけのこともできていなかった反省も残った。
- #125 作業の自発性を育てる補助具
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新しく「さをり織り班」に加わったDさん。
徐々に作業が自発的に出来るようになるが、4つに仕切った箱に入れた4色の横糸を順番に取り出せない。
そこで、タオルストッカーのように上から4色分入れ、下の口から1つずつ取り出すという流れを作った。
並列に置いていた時はどこの糸を取るのか分からなかったが、上から入れて下から出すという補助具を工夫することで、一人で作業ができるようになった。