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あかりの家自閉症療育のキーワード集抄(4)
- #23 モノを挟む
- 頭を下げて固まり、顔が上がっても目はギュッと閉じ、体に力を入れた状態が続くAさん。
ツバ吐きや大声出しにもなる。そこからの脱出に「頭上げて」「目を開けて」と声をかけ続ける。
しかし、私の声かけでは伝わらない。
応援の力がない声かけになって、余計にAさんの状態を固着させてしまう。
ふと、Aさんには役割がないことに気付き、歯磨きコップを乾燥機に入れる役割を考えた。
すると、私の声かけにも、目をしっかり開けてスッと動くことが増え、変に固まった状態でコップを移すことが減った。
直接人とのやり取りではなく、物を関わりの媒介にしていくことの意味を再確認した。
直接関わるのは物であって、それを自分で見て、判断して、動くので、下手な声かけよりは、不自然な力を入れなくてすむのだろうか。
- #69 彼女の意見を聞いたの?個室に“なった”の?
- 家庭では一人で寝ることがなかったSさん、個室化推進に伴い一人部屋になる。
個室化工事中にも部屋移動が2度あったこともあり、「お部屋交換」「お布団持っておいで」という言葉が頻繁に出るようになる。
支援員と同じ空間で寝ていた頃にはほとんどなかったツバ飛ばしの跡が、居室の壁一面につくようになった。
SVに相談すると、「彼女の意見を聞いたのか否か。彼女の考えをアレコレ想像してみたか否か。“個室となり”という表現は自然現象のようだ。
そうではない、“個室にした”のだ。」と返ってきた。
そうだった。
支援員は「大人なんだから一人で寝なさい」と一方的に押し付けていた。
夜間目覚めて支援員室に来ても、「寝なさい」と追い返したりもした。今から考えると、Sさんの気持ちに全く寄り添っていなかった。
今は、就寝時に足などをマッサージする。
しかしまだ、布団に入ると指や口の多動の誘惑に負けて、入眠までは、直接・間接、Sさんの中に支援員の存在が必要とされる。
状態によっては支援員と同じ部屋で寝るなどの応援も必要となる。
- #70 勝手にパニック、付き合ってパニック、うーんと付き合ってパニックが減った
- V君にはフラッシュバックのような“勝手な”パニックがある。突然夜「お母さん、○○行かへん」と大声で叫び始める。
ただ、何かのきっかけで起こるのだからと、あきらめていた。
そのV君の担当になって色々取り組み出すとパニックが増え始めた。
ゆっくりペースのV君を追い立て過ぎたのかと反省した。
しかしその内、昔のことを言っているけど、パニックの原因は今にあるのではないかと感じ始めた。
今までパニックの時には、「そんなん叫んでも伝わらんで。パニック終わり!」と、制止していた。
それが、今に原因があるような気がしてから「V君、しゃべれるんやから、何があったんか、ゆっくり話してみ。」と、堅く握った指を開くように握ってあげて、時間をかけてパニックに付き合った。
そしてだんだん分かってきた。
洗濯した靴下が片方なくなったとか、寒いから下着を長袖にするように職員に言われたとか、そんなことに引っかかっているらしい。
当たっているかどうか密かにつけたパニック記録で見極めた。
「あぁ、あのやりとりで解決したのか、じゃぁ原因はシャツだったのか」と。
そして、ある時何か腑に落ちないことがあったのか、パニック寸前の表情でウロウロしていた。
その時たった一回、それも聞き逃してしまいそうな独り言で「シャツ破った」とつぶやいた。
そのようなことを経て、だんだんパニックは減り、あってもすぐに解決できるようになった。
- #103 お母さんは悪くない
- 行動障害の息子にアザを作られ続けながら、それでも母親は頑張っていた。
それをお母さんの友達が見るに見かねて、コーディネーターに連絡を入れてきた。
そのようなお母さんは、決まってこう語り出す。
「こうなったのは私のせいです・・・」と。
その言葉の一つひとつに、孤独な子育てと家族などからの批判に、次第に心を閉ざした母親の苦悩が見える。
相談支援で大切にしていることは、自信をなくしたお母さんの、今日からの再スタートの手がかりを探して、しばらく私と共に歩んで行くことである。
「お母さんは悪くない!」この言葉から、心の葛藤を解きほぐしたK君のお母さんは、今日までのつらさを涙で流して新たなスタートを踏み出された。
そしてK君を“気持ちと体を一歩前に出して”受け止めながら、今では他のお母さんの橋渡し役として活動されている。
- #111 状態を崩すと前例が通じない
- 定期的にショート利用して2年になるAさん。
ある時、家庭で状態が崩れ、緊急利用となった。
その初日の、朝のランニングでパニックを起こした。
原因が分からないまま、その場は収めて、作業棟に行った。
しかし表情が浮かない、作業に集中出来ない。
そのうち体を小刻みに震わせた。
ハッと感じて、トイレ誘導してみると大量の排尿があった。
その後はすっきりした表情で、作業も順調にこなせた。
2年の付き合いで、トイレの要求は身振りで示し、適度に行くことが頭にあった。
ところが、今回は調子を崩しての利用であった。
普段なら簡単に出来る意思表示も、何らかの引っかかりがあって上手く出来ずにいたのだ。
状態を崩して受け入れる場合には、十分過ぎる程の手助けが必要だと感じた。
そういった場合は、細かな変化をキャッチする感度とそれに沿った対応の出し入れが大切であることを学ばせてもらった。
- #128 うそだと分かった瞬間、信頼関係を失う
- うそをつかない。
このことは、私と息子との関わりの基本である。
「これから予防注射に行きます」と、はっきり伝える。
子どもだましもしない。
不愉快なことでも話した。
うそをつくと、それがうそだと分かった瞬間、信頼関係を失う。
それが一番こわい。
私にとっても言い訳しなくてもいいから楽だった。
強く促すこともあるが、彼のことについては勝手には決めない。
彼の言うこともしっかり聞く。