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あかりの家自閉症療育のキーワード集抄(2)
- #9「わかりやすさ」や「手順化」の工夫
- 少しでも自立的な生活を応援しようと、Bさんの全自動での洗濯に取り組んだ。
最初の困難さはスイッチ類の多さであった。そこで不必要なスイッチはテープを貼って隠した。
また、洗濯終了合図のために、首にタイマーをぶら下げた。
1年程の取り組みで
①夕食後
②所定の場所から
③洗剤カップ1杯を取り出し
④2つのスイッチを順に押し
⑤リビング壁にある50分にセット済みのタイマーをONにし
⑥そのタイマー音で洗濯物を取りに行き
⑦ベランダに干すことができるようになった。
テープ貼りは不要になり、声がけもしていない。
- #10 禁止だけではなく具体的に教える
- 「ダメ」の禁止だけでは何をしていいか分からない。
<具体的な方法>や<ふるまい方>を提示して、次の行動の<手がかり>を教えてあげる必要がある。
(2)「リビングで座って待ってください」
職員にあれこれ質問を繰り返し、対応次第ではイライラを誘発させガラスを割ることもあったAさん。
特定支援員との二者関係が強く、事務所までも捜しに来る。
当初「今はダメ」と答えていたが、強い二者関係を利用して「すぐ行くから、リビングで待っていて下さい」と伝え方を変えると、リビングに行って待つことができるようになる。
最近は「わかりましたか?」と聞き直し、「わかりました」を引き出し、行動の前に言葉のやりとりをはさんでいる。
聞き分けが随分良くなった。
- #15 「生理が始まってねー」
- 「生理が始まってねー」とお母さんが話された瞬間、とても聞いていた感じはないし、そんなことで怒りだす印象もないGさんが、突然自傷を始めた。
4年生で始まった生理にお母さんは戸惑い、ついつい否定的な話し掛けを私にしてきた時のことである。
10年程前のことだが、「エッ、しっかり聞いているんだ!」という、恥じながらの意外性が強烈な印象として忘れられない。
やや自分勝手な聞き方があるにしても、そ知らぬ顔でも結構伝わっている。
似たような経験は少なくない。
- #19 落ち着く型、しなくてすむ型を作る・教える
- (2)手を後ろに組んで移動する
Bさんはこだわりが強く、時には危険を伴うこともあった。
職員より先に走ってしまうと、真っ先にこだわりが出てしまうため、日常的に行動のスピードを落としていく必要があった。
また、強いこだわりを先行させると、関係が成り立たなくなった。
こだわりが高じた時の表情は苦渋に満ちている。
あれこれ工夫の結果、移動の際、手を後ろに組んで、職員の後ろから歩くといった型を考えついた。
当初、職員を追い越さないというルールは全く伝わらなかった。組んでいる手もすぐに離した。
しかし、走り出すこともなくなり、次第に<一緒に歩いている>実感が出始めた。
Bさんも、こだわりから開放されて、リラックスできている様子が表情からはっきり伺える。
多動もかなり影を潜め、行動もまとまってきつつある。
今では、手を後ろに組むこともない。
<S・V>
当初いいアイデアでうまくいったとしも、関係がとれるようになると、普通の歩き方に切り替えていかないと、元に戻ることを恐れてパターン化してしまう。
怖いのは、若い職員が後ろ手に組むことが、「プロの意味ある仕事」という風に、形式的に入ること。
手を後ろに組むことはいいことだって入ってしまうと、気がつけば、あかりの人は皆手を後ろに組んで歩いているということになる。
- #21 暴れなくてすむように、職員に応援を求める
- 定期的に短期入所を利用するDさん。
食事中、食べ物を投げたり食器をひっくり返すため、嫌がられながらも職員が手を添えてゆっくり食べる応援をする。
そのうち手を添えなくても横に居るだけで何とか食べれるようになった頃、苦手な野菜を目の前にして「手を持っといて、手を持っといて」と突然要求してきて驚くやら嬉しいやら。
自分の動きや感情を上手くコントロールできない場面で、「人」を頼りにしてきたのだ。
- #44 思いを支持する・応援する
- 作業中、Fさんがスーと自分の持ち場を離れ、こだわっているカレンダーを書こうとした。
そこで、「Fさん、作業の場所に戻って、作業を続けて下さいね」と声を掛けた。
Fさんはすぐ持ち場に戻った。
そして作業終了後、Fさんが爽快な表情で「我慢できた~。良かった~。えらかった」と嬉しそうに伝えてきてくれた。
私の声掛けで持ち場に戻って作業を再開したFさんは、その後40分、私の存在を意識しつつ、カレンダーを書かない努力を続けていたのだった。
「Fさん、ずっと頑張っていたのね。我慢していたのね。えらかったね。我慢できて良かったね。嬉しかったね。」と、私の喜びも伝えた。
- #55 怠けるな!?
- ケーブル解体作業班のKさん。
中央に山積みした「みんな用」のケーブルを前に、突っ立ったままの状態が目立った。
職員の声がけも、つい「頑張れよ!」といった“怠け者”への声がけとなる。 色々考えていく過程で、山積みの中から10本程度を選んでKさんの作業台に置いてみた。
するとKさんは“怠け者”どころか誰よりも能率良く、一気に仕上げてみせた。作業班のエ-スになった。
実は、“怠け者”ではなく「分かりにくさ」であった。
そのポイントは、①「山積み」ではなく「小分け」であり、②中央に山積みした「みんな用」ではなく、自分の作業台に置かれた「自分用」であった。
「分かりにくさ」や「見通しづらさ」のところを応援してあげると、“怠け者”から「エース」に生まれ変わったのである。
となると、“怠け者”は、見抜けなかった支援員側となる。
ゴメン。
<S・V>
混乱しているのは本人なんだけど、職員が混乱させていると考えて付き合った方が、先が見えてくることが多いように思う。
- #66 新任職員によって調子を崩す
- Aさんは、職員の異動時に調子を崩す傾向が強い。
新任職員が勤務で重なると、泣く、向かっていく、尿失禁が出る。
彼女の日中の動きをきっちり支えられない時、そのまま夜、寝られないということにつながっていく。
結局は、避けられないその“被害”を最小限にとどめながら、先輩職員が“黒子”として新任職員をどう支え、どう成長を応援できるかにかかってくる。
<S・V>
ぼくが一番気になっていることの一つが、担任や担当の変更、部屋や作業班の移動等に関し、彼ら一人ひとりに(ちょうど、目が悪い人に眼鏡が必要なように、自閉症の人には眼鏡に代わる)眼鏡人間が確かに保障されているか否か、そういう観点を持っているか、強く意識して付き合っているか、ということである。
彼らにとって、外や内からの刺激をミニマムにし、普通に動ける応援をキチンとできる、「存在感」ある人が必要である。